大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

仙台地方裁判所 昭和43年(手ワ)172号 判決 1970年7月09日

原告 大山義雄

右訴訟代理人弁護士 佐藤達夫

被告 株式会社広信社

右代表者代表取締役 米内沢金十郎

<ほか一名>

主文

一、被告阿部元雄は原告に対し金一六〇、〇〇〇円及びこれに対する昭和四三年一月一日以降完済に至るまで年六分の割合による金員を支払え。

二、原告の被告株式会社広信社に対する請求を棄却する。

三、訴訟費用は原告と被告阿部元雄との間においては原告に生じた費用を二分しその一を同被告の負担とし、その余は各自の負担とし、原告と被告株式会社広信社との間においては全部原告の負担とする。

四、この判決第一項は仮に執行することができる。

事実

第一、申立

(原告)「被告らは合同して原告に対し金一六〇、〇〇〇円及びこれに対する昭和四三年一一月一日以降完済に至るまで年六分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告らの負担とする。」

との判決を求める。

(被告ら)いずれも「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求める。

第二、主張

一、請求原因

(一)  原告は次の約束手形一通(以下本件手形という)を所持している。

1 金額   金一六〇、〇〇〇円

2 満期   昭和四三年一〇月三一日

3 振出地及び支払地 いずれも仙台市

4 支払場所 株式会社秋田銀行仙台支店

5 振出日  昭和四三年八月三〇日

6 振出人  株式会社広信社代表取締役 米内沢金十郎

7 受取人  仙台製版 阿部元雄

本件手形には次のような裏書の記載がなされている。

第一裏書欄 裏書人  阿部元雄

被裏書人 大山義雄

第二裏書欄      (抹消)

第三裏書欄 裏書人  大山義雄

被裏書人 (白地)

第三裏書欄 裏書人  金原隆雄

被裏書人 (白地)

(二)  本件手形は訴外米内沢シゲが被告株式会社広信社の代表取締役米内沢金十郎から作成権限を与えられ、その代理人として、直接前記(一)6のような振出人の名称その他を作成して被告阿部に振出交付したものである。

(三)  本件手形の受取人である被告阿部は、その第一裏書欄の被裏書人を白地のまま、拒絶証書作成義務を免除して、これを訴外菅原富男に裏書譲渡した。なお原告は同訴外人から本件手形の譲渡を受けたものであるが、その際右の白地を補充せず、かつ同人の裏書なしにその交付を受け、原告において自己の名称を右白地に補充したものである。

(四)  原告は本件手形を取立のため、訴外金原隆雄に裏書をし、同人が満期に支払場所に呈示して支払いを求めたが、支払いを拒絶された。

(五)  よって原告は被告らに対し、合同して本件手形金一六〇、〇〇〇円及びこれに対する満期日の翌日である昭和四三年一一月一日以降完済に至るまで手形法所定年六分の割合による利息の支払いを求める。

二、請求原因に対する被告会社の答弁

請求原因(一)の事実は認めるが、同(二)の事実は否認する。本件手形の振出は被告会社の全く関知しないところであって、偽造手形である。同(四)の事実は知らない。

≪以下事実省略≫

理由

一、原告の被告会社に対する請求について。

甲第一号証の表面(本件手形の表面)の成立につき判断するに、その振出人欄における被告会社代表取締役米内沢金十郎の記名と名下の印影が被告会社のゴム印及び印章によるものであることは被告会社の認めるところであるけれども、≪証拠省略≫によると右は被告会社代表取締役米内沢金十郎の妻米内沢シゲが昭和四三年八月ごろ阿部元雄の求めにより自ら被告会社代表取締役米内沢金十郎のゴム印及び印章を使用して作成したものと認められる。

原告は米内沢シゲが金十郎から代理権を与えられていた旨主張し、≪証拠省略≫によるとシゲは被告会社の取締役となっていることが認められるけれどもこのことのみをもって手形振出の代理権が与えられていたと認めることはできず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。かえって右に掲げた各証拠によるとシゲは金十郎の不在中、阿部元雄から「決して迷惑をかけないから手形を貸してくれ」との強い求めによりやむなく金十郎に無断でこれを作成したものであり、またシゲは被告会社の取締役とはいえ右は形式上のことであって手形を振出す代理権は有していなかったことが認められる。

そうすると被告会社は本件手形上の債務を負担しないから、原告の被告会社に対する請求はその余の点を考えるまでもなく理由がない。

二、原告の被告阿部元雄に対する請求について。

(一)  本件手形上に受取人として記載されている被告阿部が第一裏書欄に自己の名称を記載し、拒絶証書作成義務を免除したうえ被裏書人欄を白地としたままこれを菅原富男に裏書譲渡したこと及び原告が本件手形の所持人であるところその裏書欄には請求原因(一)のような記載がなされていることは右当事者間に争いない。

(二)  右当事者間においてその成立に争いない甲第一号証によると本件手形は満期日の翌日たる昭和四三年一一月一日支払いのため支払場所に呈示されたが支払いが拒絶されたことが認められ、これに反する証拠はない。

(三)  被告阿部は菅原富男に対する金六〇、〇〇〇円の支払拒絶権を主張するが原告が被告阿部と菅原との関係を知っていたと認めるに足りる証拠は全く存在しないから、その余の点を考えるまでもなく被告阿部の右抗弁は理由がない。

(四)  以上によれば被告阿部は本件手形の裏書人として手形金一六〇、〇〇〇円とこれに対する満期日の後である昭和四三年一一月一日以降完済に至るまで手形法所定の年六分の割合による利息を支払う義務がある。

三、結論

よって原告の被告会社に対する請求は失当として棄却し、被告阿部に対する請求は理由があるから認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九二条を、仮執行の宣言につき同法第一九六条をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 原健三郎)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例